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宇和島簡易裁判所 昭和34年(ハ)239号 判決

原告

右代表者法務大臣

井野碩哉

右指定代理人

大坪憲三

渋谷誠夫

菊池義夫

愛媛県東宇和郡宇和町大字鬼窪

被告

宇野都光義

右当事者間の昭和三四年(ハ)第二二九号電話加入名義変更手続履行請求事件について当裁判所は昭和三四年一〇月二六日終結した口頭弁論に基いて次のとおり判決する

主文

被告は卯之町電報電話局電話番号第二百二十七番の電話加入権につき訴外有限会社宇都宮材木店に対し名義変更手続をせよ

訴訟費用は被告の負担とする

事実

原告指定代理人は主文と同旨の判決を求め

その請求の原因として

一、被告は愛媛県東宇和郡宇和町大字鬼窪に本社を有し製材を業とする訴外有限会社宇都宮材木店の代表取締役であつて卯之町電報電話局の電話加入原簿上は同局電話番号第二二七番電話加入権の名義人として登録せられているものである

二、しかしながら右電話加入権は事実は被告のものではなくて訴外有限会社宇都宮材木店の財産に属するものであるのに同会社代表者である被告が擅に被告名義に登録したに過ぎないものであるから同会社は被告に対して加入権名義変更手続をとるべき権利を有するものである

三、ところで原告国は右訴外会社に対し昭和三四年四月三〇日現在において昭和三二年度分法人税更正決定分、本税金一一八、九三〇円同重加算税金五九、〇〇〇円、同利子税金二三、六八〇円、同延滞加算税金五、九〇〇円、昭和三二年度法人税再更正決定分本税金七五、七四〇円、同重加算税金四四、五〇〇円、同利子税金三六、二九〇円、同延滞加算税金四、四五〇円、合計金三六八、四九〇円、の租税債権を有しているものであるが同社は本電話加入権以外に特段の資産も有していないので原告はやむなく昭和三三年九月十五日滞納処分として右加入権の差押をした

四、ところが本件電話加入権は前記のとおり登録原簿上は被告個人名義となつているため差押の登録ができず原告は被告に対し右加入名義変更の手続方を求めたがこれに応じない

五、よつて原告は被告に対し民法第四二三条所定の債権者代位権に基いて本件電話加入名義変更手続の履行を求めると陳述し

証拠として甲第一、二号証、第三号証の一ないし四、第四号証、第五号証の一ないし三第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一一号証を提出し証人清水重雄の証言を援用し乙号各証の成立を認めた

被告は原告の請求棄却の判決を求め

答弁として

原告主張の請求原因のうち第一項および第三項、第四項記載の事実は認めるがその余の事実は否認する

本件電話加入権は被告個人の権利に属するものであつて只電話の架設費並に使用料等は訴外有限会社宇都宮材木店において負担する約定で同会社に貸与しているものであると陳述し

証拠として乙第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし九を提出し証人宮本源四郎の証言を援用し甲号各証の成立を認めた

理由

被告が訴外有限会社宇都宮材木店の代表取締役であつて本件電話加入権(第二二七番)の名義人が電話加入原簿上記証被告個人名義に登録せられていること、原告が右訴外会社に対し原告主張の請求原因第三項記載のような租権を有しこれに基いて原告主張の日時に滞納処分として本件電話加入権の差押をせんとしたが被告個人名義であつたためその差押の執行ができなかつた事実は当事者間に争がない。

そこで先づ本件電話加入権の真実の権利者が右訴外会社なのか、どうかについて考察するに成立に争ない甲第三号証の一ないし四、第五号証の二、三、第六号証の二、第七号証の二、三、第八号証の二、第九号証の二第一〇号証の二の各記載と証人清水重雄の証言とを綜合すれば訴外有限会社宇都宮材木店はいわゆる同族会社であつて昭和二六年四月三〇日に設立された会社であること、本件電話加入権は右訴外会社設立後である同年九月一四日に架設されたものであること、同年度における同会社提出の法人税の修正申告書添付の財産目録、貸借対照表に同会社財産として登載されていること、その後現在までに提出された確定申告書の添付書類にも引続き会社財産として同様登載してきていること、事務所移転に際しての電話の架設費その他電話使用料の如きもいづれも右訴外会社において負担していること、本件電話が同会社の事務所に設置されていること等を認めることができる

以上一連の認定事実を綜合して考え合すと特段の事情がない限り本件電話加入権は被告個人のものでなく訴外会社が真の権利者であるといわなければならない

被告は右電話加入権は被告個人のものであつてこれを右訴外会社に貸与していたに過ぎないと主張するけれどもこの点については被告の提出、援用にかかる全証拠をもつてしても、いまだ右認定を左右するにたりない。

しかして原告が右訴外会社に対し前記認定のとおりの租税債権を有することは被告の争わないところであり一方訴外会社は事業不振のため業績上らず事実上解散状態にあつて現在においては財産等皆無に等しく本件電話加入権がその唯一の財産であり、しかも右訴外会社においてその属する本件電話加入権の名義変更請求権を行使しないことは前税債人清水重雄の証言その他弁論の全趣旨に徴し肯認できるとすれば原告はその有する前記租税債権を保全するため右訴外会社の債権者としてその属する右電話加入権の名義変更請求権を右会社に代位して使行することができるものというべきである

そうすると被告は本件電話加入権について右訴外会社に対し同会社名義にこれが名義変更の手続をなすべき義務がある

よつて原告の本訴請求を正当として認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する

(裁判官 森実)

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